東京に本社がある日系メーカーの韓国駐在員が、ソウルで住宅を購入しようとしてまず驚くのが『DSR 40%』という規制だ。日本の住宅ローン審査では『返済比率35%』『年収倍率7倍』が目安として案内されるが、韓国では政府が法的に『年収の40%まで』と上限を定めている。同じ『年収に対する返済能力』を測る指標でも、運用の厳しさと計算式が大きく違う。日韓どちらの市場で家を買うにしても、両者を比較しながら『自分の本当の限度』を把握できれば、契約直前に銀行で『限度オーバーです』と言われる事故を避けられる。
韓国の住宅ローン規制『DSR 40%』 — 政府が引いた借入の上限線
韓国の DSR(Debt Service Ratio・総債務元利金返済比率)は、2021年7月から全ての家計ローンに段階的に適用された『借主単位の総量規制』だ。核心は1行。
年間元利金返済額 ÷ 年間所得 ≤ 40%(1金融圏銀行基準、2金融圏は50%)
ここで『年間元利金返済額』は申請する住宅ローンだけでなく、全ての家計ローンの元利金合計だ。クレジットローン・自動車ローン・カードローン・学資ローン — 全部分子に入る。分母の『年間所得』は源泉徴収票または所得金額証明書で検証された税前所得。
この規制は、銀行が自由に評価していた時代(2018年以前)と決定的に違う。銀行が『この人は信用が良いから多めに貸そう』と判断しても、DSR 40%の線を超えるローンは物理的に実行不可能。上限は政府が引いた線で、銀行はその中でしか営業できない。
計算式 — 年収 7,000万ウォン家計の早見表
最もきれいなシナリオから見る。30代共働き夫婦、合算年収 7,000万ウォン(約 770万円相当)、既存負債 0ウォン、4.5%・30年元利均等で住宅ローン申請。
年間元利金限度 = 7,000万 × 40% = 2,800万ウォン/年 月元利金限度 = 2,800万 ÷ 12 = 約 233万ウォン/月
この月 233万ウォンを 4.5%・30年元利均等の公式に逆算すると元金が出る。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 家計年収 | 7,000万ウォン (約 770万円) |
| DSR 40%限度 (年) | 2,800万ウォン |
| 月元利金限度 | 約 233万ウォン |
| 4.5%・30年で住宅ローン元金限度 | 約 4億 6千万ウォン (約 5,060万円相当) |
| LTV 60%換算で購入可能価格 | 約 7億 6千万ウォン (約 8,360万円) |
これが『負債なし30代共働き』の本当の天井だ。日本のフラット35『年収倍率7倍』ルールに当てはめると年収 770万円なら 5,400万円程度の借入が目安となるが、韓国 DSR 40%だと 5,060万円相当 — 多少厳しいが大差ない水準に着地する。
既存ローンが食う枠 — クレジットローン・自動車ローン
問題は 30代共働き家庭で『負債 0ウォン』が珍しいこと。クレジットローン 5千万ウォン(4年・金利 6%)があるだけで限度の半分以上が消える。
クレジットローン 5千万・4年・6%元利均等 → 月返済額 約 117万ウォン、年間 約 1,400万ウォン。
| シナリオ | 年間元利金限度 | クレジットローン控除後 | 住宅ローン元金限度 |
|---|---|---|---|
| 負債 0ウォン | 2,800万 | 2,800万 | 約 4.6億ウォン |
| クレジットローン 5千万 | 2,800万 | 2,800-1,400 = 1,400万 | 約 2.3億ウォン |
| クレジットローン 5千万 + 自動車ローン 3千万 | 2,800万 | 2,800-1,400-670 = 730万 | 約 1.2億ウォン |
| クレジットローン 1億 | 2,800万 | 2,800-2,820 = マイナス | 0ウォン |
3行目が衝撃だ。クレジットローン 5千万 + 自動車ローン 3千万があると、住宅ローンは 1.2億ウォン(約 1,320万円)しか受けられない。最初に『年収 7千なら 5億は借りられるだろう』と仮定して 7億物件を見て回り、実際には『うちの限度は 1.2億』という事実を仮契約直前に知るケースが頻発する。
実務結論: 住宅ローン申請の 6~12ヶ月前にクレジットローンと自動車ローンをできるだけ整理するのが最も効果的な限度引き上げ策。1年分のボーナスをクレジットローン返済に使うだけで住宅ローン限度が 1~2億ウォン伸びる。
『ストレスDSR』 — 上乗せ金利の意味
2024年2月から『ストレスDSR』が段階的施行されている。変動金利・混合金利の住宅ローン申請時、実際の表示金利に追加加算金利を上乗せして DSR を算定する。
| 時期 | 加算ストレス金利 | 適用対象 |
|---|---|---|
| 2024.2 1段階 | +0.38%p | 1金融圏変動・混合住宅ローン |
| 2024.9 2段階 | 首都圏 +0.75%p / 地方 +0.50%p | 1金融圏 + 2金融圏一部拡大 |
| 2025.7 3段階 | 首都圏 +1.50%p / 地方 +0.75%p | 全家計ローン |
3段階施行後、首都圏で 4.5%変動金利の住宅ローンを申請すると、DSR は 4.5%でなく6.0%基準で計算される。同じ元金でも算定金利が 1.5%p 上がると月元利金が約 17~18%増え、結果的に限度がほぼ同比率で縮む。年収 7千万ウォン家計で首都圏・変動金利申請なら限度は約 4.6億でなく約 3.8億ウォン水準まで落ちる(2段階適用時は約 4.2億)。固定金利(混合金利5年以上固定後変動の一部含む)で申請するとストレスDSR加算が半分または全額免除されるため、表示金利が固定の方が 0.3~0.5%p 高くても限度差で固定が有利になる家計が多い。
日本の『返済比率』と『借入限度額』 — フラット35 年収倍率7倍
日本側はどうか。住宅金融支援機構のフラット35 では『返済比率 35%以下』(年収 400万円未満は 30%)が目安だが、より広く使われるのが『年収倍率』 — 借入額 ÷ 年収が 7倍以下が安全圏というルールだ。
| 年収 | フラット35 安全圏 (倍率7倍) | 実勢平均 (年収倍率) |
|---|---|---|
| 400万円 | 約 2,800万円 | 約 6.5倍 = 2,600万円 |
| 600万円 | 約 4,200万円 | 約 7.0倍 = 4,200万円 |
| 800万円 | 約 5,600万円 | 約 7.2倍 = 5,760万円 |
| 1,000万円 | 約 7,000万円 | 約 7.5倍 = 7,500万円 |
例えば年収 600万円の家計が 4,000万円・1.5%・35年元利均等でフラット35 を組むと月返済 約 122,473円、年間 約 147万円 → 返済比率 24.5%で安全圏に余裕。同じ家計が韓国式 DSR 40%基準で計算すると、4,000万円相当(約 3.6億ウォン)・4.5%・30年なら月 約 18.2万円・年 218万円 → 比率 36.4%で限度ギリギリ。
つまり同じ年収でも住宅ローンの『金利水準』と『計算ルール』が違うと限度に大きな差が出る。日本の低金利(1.5%前後)が借入限度を実質的に拡張してくれる効果が大きい。
結論 — 日韓共通の判断軸
韓国 DSR 40%と日本の返済比率 35%は、表面的な数字以上に運用が違う。次の3軸で自分の状況を整理する。
- 金利水準: 日本 1.5% vs 韓国 4.5% で、同じ元金・同じ期間でも月返済が全く違う。低金利国の方が限度が伸びる構造。
- 既存ローンの扱い: 韓国 DSR は全家計ローンを合算、日本の返済比率は新規住宅ローン中心 — 既存負債が多い家計ほど韓国の方が厳しい。
- 規制の硬直性: 韓国は政府が引いた線、日本は銀行・機構の運用基準。緊急時に韓国は規制が即時強化(ストレスDSR導入のように)、日本は緩やかに調整。
interest ツールに韓国 DSR 40%モードと日本フラット35モードを並べて比較できる。同じ家計シナリオを日韓両方で計算して、どちらの市場で買うか・両国の限度差を把握するのに使える。30年 vs 40年期間トレードオフも並べて見ると期間延長による限度拡張の戦略が見える。
家計負債/GDP 比率は韓国 約105% vs 日本 約65%(2025年基準)。韓国の方が家計レベルでの債務負担が重く、政府が DSR 40%という強い手段で介入する背景にこの数字がある。日本もいずれ似た方向に動く可能性はあるが、現時点では低金利・長期安定が借入限度の余裕を担保している。 → 私の住宅ローン限度を計算